C.Moy式ヘッドフォンアンプの制作

Chu Moy氏が設計したヘッドフォンアンプが自作オーディオ界では有名だそうです。
ヘッドフォンを持っているので作ってみる事にしました。
オペアンプの動作を理解したり、回路設計を体験するにはもってこいの回路です。
電子工作初心者の方にもオススメです。

回路構成
1素子入りオペアンプを使っている、パスコンの追加/変更以外はオリジナルの設計そのままです。
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パッシブHPF(カップリングコンデンサ)→オペアンプ(非反転増幅)→ヘッドフォン
と、ものすごく単純な回路です。
オペアンプの出力に付いている抵抗は、出力制限用の抵抗です。
ヘッドフォンは誘導負荷ですのでオペアンプによっては暴走、発振、リンギングを引き起こすかもしれません。
そのため、直列抵抗を入れて高周波帯を制限しています。
オペアンプのデータシートに時々書かれているように、出力にスナバ回路を付けるのも有効です。
低速オペアンプ(スルーレートが低い、帯域幅が狭い)なら不要です。

通常、オペアンプは両電源が必要ですが、供給元を見ると正電源しかありません。
ここで使われているのが、抵抗分圧を利用したレールスプリッタです。
抵抗分圧の両端に電源を繋ぎ、中心をGND(基準電位)とすれば、元の電位が変わります。
しかし、負荷側の電流が抵抗分圧へそのまま流れる事になるので注意が必要です。
さらに、電源のインピーダンスが上がったり、消費電力により電源変動が発生する(後述)ので、あまり良いものとは言えません。
今回はオペアンプを2個使うだけですので、コンデンサで対応できる程度の影響だと考えられます。

レールスプリッタって何?
「レール」とは電源の事を言います。
すなわち「電源を分割する物」です。
もう少し言うなら「基準電位を移動させる物」です。
今回は単電源(9 V〜0 V)を両電源(4.5 V〜-4.5 V)へ分割しています。

ICについて
オペアンプを固定してしまおう、と思っていたのですが、その辺に色々なオペアンプが転がっていました。
これを試してみない手はありません。
オペアンプを差し替えて音の違いを確かめてみます。
しかし、どのオペアンプも表面実装ですので差し替えができません。
嫌いですがピッチ変換基板を使う事にしました。
パスコン(C7〜10)は変換基板上へ配置し、変換基板の8番ピンをGNDとしました。
使ったオペアンプを表にまとめてみます。
※特性はデータシートから適当に拾ってきた物なので参考程度にしてください。

型番 メーカ タイプ 用途 スルーレート
[V/μs]
GB積
[MHz]
入力バイアス電流
[pA]
備考
LF356 ナショナルセミコンダクタ J-FET入力 汎用 12 5 30 定番の一つ
OP37 アナログデバイセズ バイポーラ/低ノイズ オーディオ 17 63 15000 OP07の低歪み版
OP177 アナログデバイセズ バイポーラ/低オフセット電圧 高精度回路 0.3 0.6 1200  
AD8055 アナログデバイセズ 構成不明(バイポーラ入力?) ビデオ/高速回路  1400 240 400000
AD8065 アナログデバイセズ J-FET入力/レールツーレール 測定器/高速回路 180 100 2 何故かオーディオで好まれる
OPA656 バーブラウン J-FET入力 ホトダイオードアンプ 290 230 2

部品について
基本的に全てチップ部品で作りました。
カップリングコンデンサにはフィルムコンデンサを使いました。
パスコンで使ったニオブコンデンサは最近手に入れたものです。性能を試す意味で使ってみました。
150μFの電解コンデンサはこだわって、オーディオ界定番のOSコンデンサを使いました。
本来ならもっと大きな容量にしたいのですが、入手できたのは150μFまででした。

種類 型番/規格 個数 備考
IC 上記 2 ピン互換、両電源ならほぼ何でもOK
抵抗 10 Ω 2 低速オペアンプなら省略可能
  1 kΩ 2  
  4.7 kΩ 2  
  10 kΩ 2  
100 kΩ 4
電解コンデンサ 150 μF 2 保安上耐圧は10V以上、容量は大きい方が良い
積層セラミックコンデンサ 0.1 μF 4
ニオブコンデンサ 10 μF 4 タンタルコンデンサでも良い、省略可能
フィルムコンデンサ 0.1 μF 2 セラミックコンデンサは非推奨
RCA端子 シャーシ取りつけタイプ 2 赤と白
ステレオミニジャック シャーシ取りつけタイプ 1 ヘッドフォン用
トグルスイッチ シャーシ取りつけタイプ 1 種類は自由
電池スナップ   1  
006P電池   1  

パスコンの影響を見る
先の回路説明で書いたように、今回の電源は消費電力によって大きな変動が発生します。
せっかくですので、普段見られないパスコンの影響を見てみましょう。
まずはパスコンを一切付けていない場合の出力波形です。
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LF356、入力周波数:10 kHz
パソコンのオーディオ出力(fs=44.1kHz)を使っているのでエイリアシングが見えます。
この時、電池の両端(Vdd-Vss)をオシロのAC結合で見ると
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出力波形が現れています。これでは使い物になりません。
さらにこの場合、ちょっとした事(0.1 dB程度の過入力、ヘッドフォンからの信号逆流)で発振が起きます。
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0.1 μFと10 μFのパスコンを付けました。
まだ少しだけ変動波形が残っています。
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150 μFのパスコンを付けると、元あった波形の見分けはつかなくなりました。
残念ながらニオブコンデンサとOSコンデンサの影響までは分かりませんでした。

オペアンプを換装してみる
個人的な評価ですがメモ程度で書いておきます。
音源はS/PDIF→USBアダプタのアナログ出力、ヘッドフォンはパイオニアのHDJ-1000を使いました。

・LF356
低音が潰れます。とても聴けたものではありません。
・OP37
バイポーラ構成ですが問題無く動作します。中域が弱いイメージ。
・OP177
低音〜中音が強く出ますが、中低域が潰れてしまいます。
・AD8055
ヘッドフォンを繋ぐと正側が出力されなくなりました。
誘導負荷に耐えられないようです。
・AD8065
低音が特に強化されます。弦楽器系が良い感じに聞こえました。
・OPA656
今まで他の音に埋もれて判別できなかった音が聞こえました。迫りくるような音が素晴らしいです。

オススメはもちろんOPA656です。コストを考えるならAD8065が良いでしょう。

筐体について
タカチのプラスチックケース、PR-105Bを使いました。
長辺の角が取れた面白い形をしています。
電池とコンデンサが容積を取りまくるので他のケースを使う場合は注意が必要です。
ZoomZoom

ZoomZoom
入出力とスイッチというシンプルなデザインにまとめました。
個人的にスイッチのディテールが気に入っています。

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