Audacityを使ったマスタリングのやり方(盤起こし編)

録音&マスタリングの練習として「盤起こし」をやってみましょう。
「盤起こし」とはレコードの音をPCに取り込むことを一般に言います。つまり、ここではデジタルリマスタをやります。

よくCDやDVDに「デジタルリマスタ」と書いてあり何だか難しそうですが、目標は低いので簡単です。
手順として
・ターンテーブル、接続、PCの設定
・レコードの再生とPCへの録音
・ノイズと音量の調整
とやります。
目標は「CDと同じ音量、オリジナルの音質」とします。要は音を大きくするだけです。

DJをやっているならレコードの扱いくらい知っているはずですが、一応最初から書いておきます。
過去に録音した曲があって、音量操作だけをしたい人は録音パートを飛ばしてください。

  まず、ターンテーブルを調整しましょう。ターンテーブルやレコードプレイヤーを持っていないなんて人は知りません。
針先をクリーナーで掃除し、針圧とアンチスケーティングをカートリッジの適性針圧にあわせておきます。
ピッチロックスイッチで再生速度を戻すことを忘れずに。
レコードもクリーナーで掃除しておきます。あればレコードスタビライザーで反りを抑えるといいでしょう。
  ターンテーブル〜PCの接続はいくつかありますが、ターンテーブル→DJミキサー→PCの接続を前提に書きます。
ミキサーの「REC Out」や「Digital Out」から、PCの録音入力へ繋ぎます。
ミキサーのゲインはあとで設定します。
Zoom PCの録音デバイスの設定を開いてください。
レベルは入力時、PCのレベルメーターが0dBを超えないように下げておきます。
「サンプルレート」はできるだけ上げてください。上げ過ぎるとPCに負荷がかかり、音飛びが発生します。ほどほどに。
マイク入力から録音するときは「マイクブースト」をオフにしないと音が歪みます。

レベルメーターに0dB以上の目盛がある?
基礎編で「0dBを超えると音割れが発生する」と書きました。
ミキサーなどの音量には+の目盛があるはずです。
ですが+の領域に入っても音割れはしません。矛盾しますね。
これは単なる考え方の違いで、PCなどのデジタルデータでは扱える最大の数値が決まっています。
Audacityの通常モードは16ビットですので、最大値は符号無し10進数で65535、符号有りでは32767です。
これが基準となっています。
ミキサーなどのアナログデータや回路では当然、最大値に決まりはありません。なので+の領域が存在します。
また、音割れ発生(飽和)の条件は増幅器の特性によって決まるので、必ずしも0dBで音割れは発生しません。
大電力を流せる増幅器なら電圧が上がっても飽和せず、逆に小さいとすぐに飽和してしまいます。
ですが、ここでは出力先にデジタル回路が待っています。人間が聞くわけではなく、過入力は好ましくありません。

Audacityを起動し、入力メーターをクリックし、何かレコードを再生してみてください。録音デバイスに問題が無ければメーターが振れます。
メーターの振れが0dBを超えない(クリッピングしない)ようにミキサーのゲインを調整しておきます。

エラーが出た場合・・・
Audacityの「編集」→「設定」から、「レコーディングデバイス」の一覧に当該のデバイスがあるか、選択されているか確認してください。
一覧になければ、録音デバイスがPCに繋がっていないか認識されていません。
また、デバイスによっては入力にケーブルが繋がっていないと機能しないものもあります。

何も録音されない場合・・・
ミキサー〜録音デバイスの間に問題があります。
ケーブルや接続先を確認しましょう。
もしくは、Audacityのレコーディングデバイスの選択が間違っています。

Zoom Audacityの録音ボタンを押します。余計な部分が録音されてしまうのですぐ次へ。
  当たり前ですが、曲が始まる前の部分に針を落とします。頭出しの必要はありません。
ターンテーブルにリフターがある場合、利用すれば針をそっと落とすことができます。
Zoom 曲が終わったら録音と再生を停止します。

録音部分はこれだけです。念のため「プロジェクトファイルを保存」で全体を保存しておきます。

さて、本題の音を大きくする部分へ行きます。
レコードの音をそのままデータとしたいなら全体の音を大きくするだけでいいのですが、DJでの使用を考えてさらに音量を上げます。

Zoom 波形を見ると、波形が線対称になっていなかったり、飛び出ている部分が見えると思います。
これは増幅器のオフセット電圧や針の振れ方など、アナログ部分から来ているようです。
Zoom 空白など、関係な部分を削除し、全体を選択→効果→「正規化」 を選び、そのままOKを押します。
これでオフセット電圧は打ち消されます。
先の正規化で波形が減衰されたので、「増幅」を選び最大化します。
ですが、思うように音は大きくなりません。最初に見たスパイクのせいです。
Zoom おそらく、LRチャンネルの音量バランスがくずれていると思います。
LRチャネルを分割してチャンネルごとに作業を進めます。
Zoom 音が大きいチャンネルを基準にすると進めやすいです。
片方のチャンネル全体を選択、そして「Hard Limiter」を使い、スパイクを押しこみます。
片方のチャンネルの全選択は、チャンネルバランス下のどこかをクリックすればできます。
「dB Limit」へ適当に数値を入れ、OKを押します。
  もう一度「増幅」を行うとさらに音が大きくなることが分かります。
音が大きそうな部分を再生してみて、メーターにクリッピングの印が出ていないか確かめます。
出ていなければ、さらにリミッター、ゲインと繰り返し、クリッピング発生直前まで音を大きくします。

クリッピングが発生してしまったら、リミッターをかける前の状態まで戻り、「dB Limit」の値を大きくしてリミッターをかけましょう。
  もう一方のチャネルにも同じ操作をします。基準にしたチャネルと音量が同じになるまでやりましょう。
あとは「スレテオトラックの作成」をし、好きなファイルに出力すれば終わりです。

ちなみに曲は、以前「Hellfish vs. Producer DJMIX」で使ったTerrorist (Producers Terror By Error Hoedown) / The Speed Freakを使いました。
この曲はデジタルリリースからのアナログカットです。デジタルリリースと盤起こしの波形も見てみましょう。
Zoom
上がデジタルリリース、下が盤起こしの画像です。
アナログ化でダイナミックレンジが変わっていることが分かります。
また、レコード特有の周波数損失、カートリッジなど使用機器の特性も加わっていると考えられます。
善し悪しの判断は実際は聴いてみないと分からないので、後は個人に任せます。

・曲の後半で音質が悪くなる?
自分自身は体験したことはありませんが、そんなことを聞いたことがあります。
レコードの溝は常に円を描いていますが、一部分だけ拡大してみるとほぼ直線のように見えます。
ですが、円なので内側になるにつれて曲線に変化することになります。
溝が曲線、つまり曲がっていると、思うように振動を書き込んだり、拾うことができなくなります。
よって曲の後半で音質が悪くなると考えることができます。

このように考えると、回転数も音質に関係することになります。
回転数が多ければ一定時間に進む距離も長くなり、溝はより直線に近づくことになります。
つまり33rpmより45rpmの方が音が良いと言えます。

いずれにしろ、レコードの特徴にすぎません。あきらめましょう。

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